【君と大惨事を作るRPG】あなたはFiasco(フィアスコ)を知っていますか?
Fiasco(フィアスコ)、というTRPGシステムをご存知だろうか?
キャッチコピーは、「君と大惨事を作るRPG」。
そして最大の特徴は、「GMとシナリオが存在しない」ということ。
今回は、そんなFiascoというシステムとの出会いと、魅力と、実際に遊んでみたプレイレポートについて書いてみた。
※ルールの詳細(TIlt tableなど)やプレイセットの内容は記載していません。
※Fiascoには「口汚い言葉」「際どい描写」「不届きな振る舞い」が含まれます。閲覧は自己責任でお願い致します。
"くらえ きんたまボム"
- にしじ、Fiascoの第一印象について
その時、俺は自分のクトゥルフ神話TRPGのシナリオの改善作業に追われていた。
人生で初めて作成したシナリオをテストプレイした結果、多くの課題が見つかったからだ。このことは、俺にクトゥルフ神話TRPGにおける「GMとシナリオ」の重要性を再考させるのに十分な出来事だった。
クトゥルフ神話TRPGにおけるGMは、その物語の世界を構成する全ての「法則」を司る神に等しい存在である。そして、シナリオはある時代・ある人物たちについての「運命」「因果」が記述された「ポーネグリフ」のようなものだ。
自分でシナリオを書き、GMとしてセッションで回すという行為。
TRPGで遊ぶ上でこれほど重大な任務はない…そう考えていたときだった。
「くらえ きんたまボム」
作業用BGMとして何気なく流していた配信のアーカイブから突然の「きんたまボム」。作業を中断せざるを得なかった。
GMもシナリオも存在しないTRPG
俺はしばらく笑い転げて家族に叱られたあと、「シナリオ改善」の作業はそっちのけでこの「Fiasco」とかいう頭のおかしいTRPGについて調べた。
すぐに↓のまとめが出てきた。 (とてもわかりやすくゲームの流れがまとまっています。ぜひご一読を。)
ものすごーく簡潔にまとめると、Fiascoは「GMもシナリオも存在しないTRPG」だ。
アメリカはノースカロライナ州のBully Pulpit Games社がリリースしたゲームである。
事前に用意する必要があるのは「勇気あるプレイヤー」と「プレイセット」だけだ。
プレイヤーの目的は、「協力して面白い物語を作ること」。それ以外の何でもない。
クトゥルフ神話TRPGの根幹をなすGMとシナリオについて深く考えていたところに真逆の刺激。ハマらないわけがなかった。
何より、このゲームには「パラメータ」が存在しない。
プレイヤーが「…するとこうなります」と言ったことがそのまま起こる。
言ったもん勝ちなのだ。どんな無茶苦茶なことでもその通りになる。
破滅的な物語を形作る世界観「プレイセット」
プレイセットとはいわゆる「世界観」のこと。
このプレイセットに記載されている「要素」を組み合わせてキャラクターを「セットアップ」していく。
プレイセットの一例を挙げると、
- 古き良き剣と魔法のファンタジー
- ロックバンドの栄光と挫折
- アメコミ風ヒーローもの
- 近未来ディストピア
- 館サイコ・ホラー
- 崩壊する宇宙ステーション
などが挙げられる。*1
魅力的なシチュエーションだ。これらに記載された「要素」をダイスの出目から選んで、プレイヤーたちは各々のキャラクターを作っていく、というわけだ。
この「要素」がクセモノで、とんでもないものが多い。
例えば「ロックバンド」には「犯される」という要素がある。
「アラブもの」にはドストレートに「セックスする」という要素がある。
控えめに言ってかなりヤバイ。サイコロの出目とプレイヤーの悪意次第で、友達同士がセックスのロールプレイをしている様子を見るハメになるということだ。そんなRPG聞いたことがない。
俺はこの時点で頭がどうにかなりそうだったが、なんとか他のプレイセットにも目を通した。そして宇宙ステーションものの中に「無重力セックスは、僕らが結婚したことを意味しない。(そうだよね?)」というものを発見し、考えるのを辞めた。
ここまで書いておいてなんだが、Fiascoは決して下ネタだけではない。 それは明確に言っておかなければならない。
例えば、こんなものもある。
アメコミヒーローもののプレイセット「ピナクル・シティのヒーローたち」の「つながり」には、「一方は覚えているが、他方は知らない-タイムトラベルが生んだ悲しみ」というものがある。
SCP-1968[世界を包む逆因果の円環]や、「魔法少女まどか☆マギカ」「シュタインズ・ゲート」を思い出す要素だ。
果たして、過去にプレイヤーたちの身に何が起きたのか。
それを知っているのは、我々プレイヤーのみである。
このように、魅力的な「要素」をプレイヤー間に付与していくことで、これから綴られる物語の背景が誕生するのだ。この「ぶっ飛び具合」と「想像の余地」が、Fiascoの魅力のひとつであることは間違いないだろう。
実際にやってみた。
そのぶっ飛び加減におののきながらも、なんとかゲームをするために必要な情報を集めた俺は、なにはともあれいつもの友人たちを誘って遊んでみることにした。その日のうちに2回セッションをしたので、以下にその1回目のレポートを残すことにする。
邪神グーシオンの復活 - ゴブリンの復讐
登場人物
ロード・ゲルハルト(にしじ):狂気の魔術師。ゴブリンの村を破滅へ導いた。
ヴァル・ガレス(友人A):ゴブリン。ゲルハルトの奴隷になってしまった。
ガッブロ(友人B):ゴブリンメイジ。復讐に燃える
※レポートに登場する固有名詞は即興で考えついたものであり、元ネタはありません。
狂気の魔術師・ゲルハルトは、邪神グーシオンを崇拝するカルト・ゴブリンの村を焼き払い、生き残りの何人かをデュクセルシオンの街へ連れ帰った。その中にはゴブリンの戦士ヴァル・ガレスも含まれていた。
ゲルハルトはその強大な魔力を後ろ盾に威張り散らしている人物で、ギルドの女性ローザに(すごくブサイク)にちょっかいをかけたり、実力のない若者・マルクをからかったりして昼間から酔っ払っていた。
その夜、ゲルハルトへの復讐を誓ったカルトゴブリンの生き残り・ガッブロは彼の屋敷へ潜入する。
魔術師の居室へと入ろうとしたその瞬間、彼は邪神グーシオンのような姿をしたモンスターと対峙する。ガッブロは機転を効かせ懐に隠して持っていた「グーシオンの偶像」に仕込んだ「塩」を投げつけ、モンスターの退治に成功する。
ヴァルガレスを解放したガッブロは、なぜか合流・参戦した人間マルクと共にゲルハルトと闘うも、その中で実はゲルハルトもゴブリンだったということが判明する。
ゲルハルトの正体は、かつてヴァルガレスの父・ムルムールに村を追われた「はぐれゴブリン」だったのだ(だからB専だったのだ!)
追い詰められたゲルハルトはその邪教の最終奥義「グーシオンの復活呪文」を唱えた。
究極完全体グーシオンはついに復活した。
その姿は「島」の如き巨躯を顕現させ、デュクセルシオンの街を押しつぶした。
悲しきゴブリン・ヴァルガレスが最後に見たのは、かつての親友であったゴブリンが復讐に狂った姿であった。
その後--。
グーシオンに取り込まれたガッブロとヴァルガレスの精神はその他の全てのゴブリンたちと共有され、幸福感に包まれたまま「邪神の一部」として転生した。
ゲルハルトの汚れた魂は"転生の輪廻"から弾かれ、「その辺のおっさんのハナクソ」として転生し、再び生き物として生まれ変わることはなかった。
あとがき
自分でやっておいてなんだが、書き出してみるとひどいプレイレポートだ。
この後にやった2回目のセッションでは、「ロックバンドの栄光と挫折」を選んだ。一言でまとめると「ヘロインとパーティーと銃撃戦と大爆発」って感じだった。
Fiascoに出会い、実際に遊んだ感想としては、「キャラになりきってのロールプレイが好き」な人なら絶対にドハマリするだろう、ということだ。
そして、Fiascoは終わった後まで面白い。
「あの場面でよくあんな展開思いついたな!」
「まさか何気なく言ったあの一言が伏線になるとは…」
など、プレイヤーたちが予想だにしなかった化学反応について語るのが本当に楽しかった。
クトゥルフ神話TRPGを遊んでいて「もっとハチャメチャなロールがしたい!」と思ったことがある人は是非遊び方を調べてみて、そしてやってみて欲しい。きっとその「自由度」におののくと共に、破滅の物語を描くことへの深みにハマっていくことだろう。
…いずれ、公式のルールブックが邦訳され、出版されることを願ってやまない。
終わり
*1:このプレイセットは数ヶ月に一本のペースで公式サイトでリリースされている。